はぐれ者の単騎特攻

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ティガを継ぐもの ウルトラマントリガー ニュージェネレーションの苦悩

ウルトラマンティガ25周年にあたる2021年、この年に放送を開始した「ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA」はティガとのつながりを押し出し、前作である「ウルトラマンZ」の高評価もあってか商業的な成功を収めた。にもかかわらずネットでの反応を見るとティガファンを満足させられたかと言えば肯定しづらい。

 

過去のウルトラマンと紐付けられた肩書きをもつニュージェネウルトラマンはベリアルの息子ジード、タロウの息子タイガ、ゼロの弟子ゼットなど多く存在する。なのでトリガーも一見すればそうした系譜の中に位置づけられるように見える。

 

トリガーの難しさは番組そのものがティガを標榜している点だろう。

 

ティガと言えば80以来16年ぶりのテレビシリーズであり、タイプチェンジを取り入れた作品であり、超古代人をウルトラマンに据えた作品でもある。一言でいえば革新的な作品だ。

 

作品としてティガを名乗るのであればオムニバス的構成が光と闇の戦いに集約されていく妙味やウルトラマンの新しい地平を望まれるのは全く不思議なことではない。

 

ところが現在のウルトラマンは2クールの放送期間に合わせた進化を遂げている。ティガのような作劇はおそらく現在では難しくなっていて、トリガーでもティガを踏まえた改変が必要となる。

そうした試みとして面白いと感じられるのはカルミラら闇の三巨人がファイナルオデッセイから採用されていることだ。後付けの作品を取り込むことで後発の利点を活かしうるし、単なるティガの再演を目指しているわけではないと示せる。

 

 

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坂本浩一監督も「ティガ」の大きさに触れた上で「ティガのリメイクではなくて、ティガのリブートでもなくて、ティガの続編でもなくて、どうすれば一番いいのかというのが凄い大きな悩みだったんです」と語る。その答えが当時ティガが社会に与えたインパクトの再現というアプローチ。当然ながらこれも難しい目標だ。

 

ティガを知るファンへのサービスを行いつつ新規の視聴者を満足させなければならない。リブットやZの登場などウルトラマルチバースの一部であることも求められる。当然ながら商品を魅力的に描かなければならない。あまりに高いハードルだ。

決して少なくない視聴者からトリガーはこの挑戦に失敗したとみられ低い評価を受けてしまっている。

 

だが、「トリガー」には数々の要請によって雁字搦めになってしまい、オリジナリティを発揮しづらい状況が盛り込まれていると想定することで異なる評価を与えられるのではないかと私は考えている。

 

ネオフロンティアバースからの転移者であり「ティガ」を背負うシズマ会長や、かつてのトリガーを知る三巨人によって、ケンゴやユナが他の何かの代替物になってしまう状況が自己言及的に見えてならないのだ。

 

これは重要なことなのだがトリガーとティガは見た目(と名前の響き)こそ似ているが現在両者のつながりは確認されていない*1。二人をつなげるのは作中ではシズマであり、作外では宣伝とそれを見た視聴者なのだ。

つながりが描かれない点こそ非難を浴びる理由の一つでもあり、挑戦的な点だったと私は考えている。本来は関係ないもののイメージに引きずられることで劇中でも繰り返される「運命」というワードがはねのけるべきものとして強く印象づけられる(自分でないものであることを求められる点でR/Bと重なる部分がある)。

 

超古代からの因縁と別世界の光の巨人、二つの物語からの視線による影響は強く、それを逃れるためにさらなる外部の視線が必要となる。

 

それこそがマルチバースからの来訪者ウルトラマンZとリブットだ。

 

ハルキが登場する話でケンゴは「僕にも最高な相棒がいて、最高なチームががいるって気づかせてもらいました」と言う。私はこの台詞に少し引っかかった。

素直に考えれば「にも」と比較の対象に上がっているのはストレイジだ。しかしケンゴはストレイジを実際に見たわけではない。ひょっとするとこの場面では無意識にせよ「ティガ」が比べられているのではないか。

やや強引かもしれないがケンゴは自らを規定しようとしない他者との交流で自らのオリジナルの部分を再発見したことになる。

 

リブット客演回はもう少し直接的で、リブットはエタニティコアを制御できないケンゴとユザレの末裔であることに悩むユナに運命に押しつぶされるなと激励する。

 

怪獣は意外なほどティガ以外の作品から採用されている。数少ない例外の一つガゾートは個性を発揮できずに退場した。

もう一つの例外であるキリエル人は誘惑によって力を持つにふさわしいものを見極めようとしていた。その中で三巨人の不和がもたらされた流れも二つの視点の衝突として眺めると趣がある。

 

番組の最終盤ではユナが自己犠牲によってトリガーを助けようとした際アキトが叫ぶ「ユザレと同じ結末を迎える必要なんてない」の言葉のように新しい道を進んでいく。

ガッツセレクトとナースデッセイ号により過去の原典ではなしえなかった光と闇の融合が成され、その力とケンゴの言葉によってカルミラのトリガーへの執着はほぐされる。新しい物語が超古代からの因縁に打ち勝てたと表現しても良いだろう。

 

しかしながら「ティガ」を振り払うことはできなかった。集大成であるトリガートゥルースは「光と闇を併せ持つ」という独自の路線を進んだがそれでさえもシズマによってティガに重ね合わされる。より大きな呪縛を解くに至らなかった点が残念だ。

 

トリガーが真に自己を確立するのはもう少し先のこととなりそうだ。

ケンゴ、ユナ、アキトの3人組やイグニスはトリガーのオリジナリティといっても良い部分なので今後の客演を通して彼らの面白さが存分に引き出されることを願っている*2

 

 

ここまでの話が全て牽強付会と思う方に「trigger」の歌詞を改めて見てほしい。

貫こう僕らの道。かけがえのない仲間達信じて進め。自分が何者か誰も教えてくれない。自らを導いて出すべき答えがある。

誰に押しつけられた者でもない物語をがむしゃらに生きようとする姿勢が別の意味を伴って見えてこないだろうか。トリガーの持つ複数の意味での青臭さが私にはとても好ましく写っている。

 

 

タイガでニュージェネレーションの枠組みはその役割を終えようとしているようだったがトリガーも「ニュージェネ」の看板を下ろせずにいる。それだけブランドとして強力なのだろうが一方でニュージェネ的作劇の行き詰まりが囁かれてもいる。トリガーは二重の意味で新世代の苦悩を抱えていた。

 

デッカーではダイナとのつながりが押し出されるだろう。当然こちらもダイナをそのまま再現することはできないし、トリガーのように、再現できない/しないことをテーマにしても既視感が出てしまう。どのような差別化が成されるのか注目したい。

*1:エピソードZ未見

*2:客演で輝くという意味でもトリガーには第二のR/Bになってもらいたい