はぐれ者の単騎特攻

ニチアサや読書について書くはずです

忍者と極道とプリキュア

かんこつ‐だったい〔クワンコツ‐〕【換骨奪胎】

[名](スル)《骨を取り換え、胎(こぶくろ)を取ってわが物として使う意》先人の詩や文章などの着想形式などを借用し、新味加えて独自の作品にすること。

 デジタル大辞泉より

近藤信輔作「 忍者と極道」はまさに換骨奪胎によって生まれる漫画である。裏社会を牛耳る極道とそれを成敗する忍者の死闘を描くこの作品において借用されるのがプリキュアシリーズなのだ。流石に「そのもの」を出すわけにはいかなかったようで、正確に言えば劇中で登場するのはプリンセスシリーズであってプリキュアではない。

 

プリキュアと言えば2004年の「ふたりはプリキュア」から現在放送中の「ヒーリングっど♥プリキュア」まで連綿と続く女児向けアニメ界のレジェンドであって、極道とも忍者とも結びつきそうにない。しかし一見ミスマッチなこの両者(三者)は互いの魅力を引き立てるベストマッチだ。そもそもプリキュア5の元ネタの一つには湘南暴走族があるわけで、プリキュアのチーム観にはアウトロー精神に通じるものがないとも言えないわけでしてブツブツ…

 

極道に家族を殺されたために笑顔になれない高校生「多仲忍者(しのは)」と誰からも好かれるサラリーマン「嬉村極道(きわみ)」は極道が落としたプリンセスカバー付きのスマホを切っ掛けに、世代(と立場)を超えて意気投合する。

後日再会した二人はプリンセスシリーズの一作フラッシュプリンセス(フラプリ)の良さを語り合うのだが、ここで語られる互いの正体を知らずに一方で交流を深め、一方で殺しあうアブちゃんとヒース様の物語は、そのままシノハとキワミの辿るべき運命として読者に提示されるものでもある(実際に今のところ物語はアブちゃんとヒース様の物語をなぞるように展開している)。

この過酷な運命をそうとは知らずに辿っていくシノハとキワミこそが忍者と極道のキモだ(「虚無い」と書いてシャバいと読ませたり「児戯」と書いてヌルゲーと読ませたりするルビ芸や極道の首がスパスパと飛んでいく爽快なスプラッタなども魅力だがここでは触れない)。

 

なぜ作中における現実である忍者と極道の抗争が一フィクションに過ぎないフラプリの展開とかぶるのかという疑問が湧くだろうが、フラプリ内の戦いが黒幕によって仕組まれていたことを考えるとこの奇妙な一致も誰かが裏で糸を引いていると考えられる。自らの計画が露見することを前提とした筋書きを作る黒幕の存在は後半の大きなカギとなってくるだろう。

 

 

原典とも言えるフレッシュプリキュア(フレプリ)ではラブの熱い説得によりイース東せつな/キュアパッションへと生まれ変わるのだが、フラプリではそうはならない。どちらかが死ぬまで戦い続けたことが明らかになっている。

 

作中作をプリキュアに寄せたことは突飛な人目を引くパフォーマンスではなく、プリキュアシリーズを見た読者にとって作品の奥行きを増す効果を与えている。見知ったキャラクターを明確に想起させるキャラクターが歩んだとされるストーリーは簡潔に語られるにもかかわらず、確かな積み重ねを持って読者の胸を打つ。そんな感情はプリンセスシリーズに重ね合わされる忍者や極道の人間関係を一層輝かせる。

 

さらに付け加えれば、プリキュアシリーズは15年以上続いているため、「忍者と極道」の展開に合わせて似たシチュエーションを引っ張り出すことも容易だ。たとえばフラプリにあってフレプリにない「妖精を失ったプリキュア」というハードな展開もハートキャッチプリキュアで見られる(プリンセスシリーズではハートブレイクプリンセスが相当すると思われる) 。

 

プリキュアネタはストーリーやキャラ付けといった重要部分だけでなく、くすぐりにも溢れている。作中最強の忍者の祖の能力を端的に示す言葉「なんでもなれる!なんでもできる!」がHugプリのキャッチコピー「なんでもできる!なんでもなれる!」を明確にもじっている。私などはこのネタに気付いたときばかばかしさに声を上げて笑ってしまった。

 

一方でプリキュアを知らずに忍者と極道の世界に足を踏み入れた人からは「もしかして元ネタ見てない人は読んじゃいけなかった?」「プリキュアを見ることを強いられている…」などの意見も出ている。

私としては「『4クールという長さや子供向け作品に抵抗がないならば』見てほしい」ものだと思う。

忍者と極道読者に伝わるように言えばプリキュアの知識は狂弾舞踏会(ピストルディスコ)におけるコンクリート片である。勿論、忍者と極道を読むだけでもコンクリート片は増えていき、思わぬ場所から感情を揺さぶられる可能性も増えていく。しかしプリキュアに触れることでコンクリート片は二倍にも三倍にも増え、狂弾舞踏会の威力はいや増していく。

とは言っても裏を返せば「4クールの長さや子供向け作品に抵抗があれば見なくとも構わない」のだ。忍者と極道はそれ単体で一つの傑作なのだから。

 

 最新章では日本の首相とアメリカ大統領の関係がドキドキ!プリキュアに重ね合わされどう着地するのか読めない。今ならまだ40話程度しかないので一日一枚配布される無料チケットとミッションをクリアすることで増えるいつでもチケットを使えば一か月程度で追いつけるぞ。