はぐれ者の単騎特攻

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犬身の解説(蓮實重彦)が凄かったんだって

tyudo-n.hatenablog.com

以前書いたこちらの記事で「犬身」の感想も書くと宣言したが、少しズラして文庫版に付された解説の感想を書いてみる。

 

蓮實重彦という評論家が著名な大家であることは知っていた。しかし、彼の評論を読もうとは思ってこなかった。強いて言えば阿部和重が傾倒している評論家ということで興味がないではなかったが。

 

初めて触れた蓮實重彦の文章である犬身の解説が意外性と説得力を兼ね備えていて、今の私は彼の文章をもう少し読んでみたいと考えている。

 

「ある『なだらかなあられもなさ』について」と題された解説が示す作品の構造。ややもすると読み過ごしてしまうような些細な描写を拾い説得力を積み重ねた主張には力がある。

 

遅れてしまったがここで簡単に作品内容を紹介しよう。子供の頃から人間よりも犬に親近感を抱き、ある人物との契約によって犬になった主人公が理想的な飼い主と理想とは程遠い現実を生きていく物語だ。

私は犬身を読むにあたって犬から見た世界(それは人間から「見た」世界とはまるで違うはずだ)をどう描くのかにばかり注目してしまっていた。

小難しい言葉を使えば犬の環世界に重点を置くと思っていたが

第3章-7. ユクスキュル「生物から見た世界」 | 科学/技術の総合化 ―小泉 健 | Seneca 21st

https://1000ya.isis.ne.jp/0735.html

実際には人と犬だからこその繋がりと心の通い合いにより重点を置いていた。面白く読めたもののやや肩透かしの印象を感じてしまった。

 

私にはこの程度の感想しか出せなかったが、解説によれば「二者択一」と「トライアングル」がこの作品を貫いているのだという。

蓮實は序盤の約20ページを振り返り、登場人物がとった行動とそこに隠れた二者択一を炙り出す。

なにかが為されるとき、その裏面に為されなかったなにかがあるのは当たり前じゃないかという意見にも一理あるがそれだけではない。どう違うのか気になる人は作品と解説を読んでくれ。百聞は一見に如かずだ。

 

 

この解説は私にとっては作品に手を加えることなく作品を作り変えてしまうものだった。妥当な表現でいえばピントが合う位置を変えてしまう。犬身を再読するとき私は選択が生み出す運動を意識せずにはいられないだろう。そのとき犬身が私の目にどう映るのか楽しみだ。

 

そういえば作品への理解の度合いを「解像度」と表現することがあるけど、あの言葉はすべての理解を同じ軸の上に並べてしまうのでどうかなと思う。それこそ世界の感じ取り方が異なれば理解の軸も違って良いのではないか。的外れに見える「考察」が広い支持を得る様子に腹が立つこともあるけども着目したポイント自体は否定せずにいたい。

 

翻って私がブログに書いている文章はどうだろう。自己評価では読んだ人に収穫をもたらす域には到底達していない。読んだ人に再読・再視聴を促す文章。私も一度で良いからそういう文章を書いてみたい。